並列分散システム富士通研究室の研究成果を1999年9月に行われる坂本龍一氏のオペラ「LIFE」で使用したいとの協力要請を受けました。その内容について述べます。
 

技術協力の概要

当研究室が開発したComet試作システムによってディジタルビデオ画像（DV: Digital Video）をインターネット（IP: Internet Protocol）を用いて配信する技術（Comet DV/IP）を用い、東京、ニューヨーク、フランクフルトの３地点間でインターネットを用いた音楽、画像の配信を行い、オペラを構成します。単なる中継ではなく、オペラ自体がDV/IP技術を用いて構成されるのは世界初の試みであり非常に高い品質が要求されます。

協力内容

Comet 試作システムを9台（予備機を含む）貸与し、同時に必要な技術サポートを行います。

オペラ「LIFE」概要

• 期間: 1999年9月4-5日（大阪公演）、9-12日（東京公演）
• 主催: 朝日新聞社、テレビ朝日
• 後援: 通産省他
• 技術協力: 慶應大学村井教授（WIDE Project）
• 内容: 日本（東京、大阪）、ニューヨーク、フランクフルトを高速インターネットで接続し、DV/IP等で相互に画像、音声をやりとりし、オペラを行う（図1）。インターネットを使って世界各地を結び、コラボレーションするイベントは世界初の試み。

技術説明

当研究室では広域ネットワークを用いた並列分散処理を実現するため、通信プロトコル処理の高速化を研究しています。当研究室で開発した試作システムCometはネットワークアダプタに搭載したプロトコル処理プロセッサで通信プロトコル処理を高速に実行させることを特徴としており、DV/IPのような高速性を必要とする処理を容易に実現することができます（図２）。

Comet DV/IPはCometの高速プロトコル処理技術を検証することを目的として1998年3月に世界で初めて試作した応用システムで、SC '98やWIDE Project研究会、Interop '98 Tokyo などで広域インターネットでの実験/展示を行い動作実績を積んできました。Comet DV/IPはこれらの実験からのフィードバックにより改良され、実際の応用に使用可能な通信品質、動作の安定性を提供できるシステムになっています。

Comet DV/IPはDVパケットのIPカプセル化の他に以下のような機能を提供しています。

パケット送信タイミング調整機能

通常の DV はビデオカメラとデッキ間などを同期バスで結んでいます。ところが、間にインターネットを入れると、同期が取れず画像を高品質で再生することが困難になります。Comet DV/IPは125マイクロ秒単位でのパケット送信タイミング調整機能を実現しており、高品質な画像配信ができます。

帯域調整機能

今回の公演では、数チャネルの動画像を相互にやり取りします。限られたネットワーク帯域を有効に使用するため、一秒間に送信する画面の数を増減して、使用する帯域を調整する機能を提供しています。

画像は間引をしても見ることはできるのですが、音声を間引くとノイズがひどくてオペラを中継することができません。そのため、間引をする際には、DVパケットから画像と音声のデータを分離し、画像のデータだけを間引いて、再度音声と画像をDVパケットに組み立て直してから送信しています(図3)。

遅延調整機能

今回のオペラでは通信路で生じる遅延を利用した演出がされる予定です。オペラで予定している遅延と、実際の遅延を調整するため、Comet 内部で遅延を調整するバッファ機能を提供しています(図3)。