1.はじめに

　多数のユーザに同時サービスを提供するサーバシステムには、経済的な拡張性と信頼性が必要である。このニーズの解決策として、コストパフォーマンスに優れた高性能PCクラスタによるサーバシステムが注目されている。これを中小規模のサーバシステムに普及させるには、障害時においてもサービスを継続できる耐故障性を備えた、並列アプリケーションのプログラム設計を容易にするライブラリが必要であると考える。

　そこで我々は、ORBの抽象化されたインタフェースに集団実行と耐故障性を高める機能を実装したサーバアプリケーション構築用並列分散ライブラリ(SORB)と、つくば研究センタで開発された高速通信ライブラリ(PM/Myrinet)による通信レイヤ(JavaPM/Myrinet)の開発を進めている。本発表では、JavaPMとSORBの実装と性能評価について報告する。

2.JavaPMの性能評価

JavaPMは、PMによる高速通信をJavaのマルチスレッド環境の中で利用する通信レイヤである JavaPMはTCP/IPと同じインタフェースで実装されているため、アプリケーション本体のプログラムを変更することなく、高速通信が可能である。 JavaPMとPMの性能を表1に示す。レイテンシはスレッド切替時間が影響して84usecであった。スループットは、受信処理とスレッド切替により、PMの1!2程度となった。オブジェクト転送では通信のオーバヘッド以上に直列化のオーバヘッドが発生するため、JavaPMの性能は、SORB の通信レイヤとして十分である。

3.SORBの性能評価

SORBは、1)集団実行機能、2)マイグレーション機能、3)耐故障機能を拡張したORBである。集団実行機能は、1回のリモート呼出しで複数のリモートオブジェクトのメソッドをマルチスレツドで並列実行する機能で、引数のスキヤッターと戻り値のリダクションが可能である。マイグレーションは、リモートオブジェクトを他ノードに移動する機能と、他ノードの同じ機能を持つたりモートオブジェクトに切替える機能を備える。

　SORBの特徴は、アプリケーションが一度ルックアップしたスタブをJavaVM内で一括管理するスタブ管理にある。スタブ管理でリモートオブジェクトの位置情報をアプリケーションから透過的に制御することで、上記2)3)の機能をアプリケーソョンから分離することができる。さらにスタブの管理情報はキャッシュとしての役割を持ち、同一のリモートオブジェクトへのルックアップを高速に実行する。

int　１個を引数に持つメソッドへのリモート呼出しの実行時間を表２に示す。100BASE-Tでの SORBはRMIと比較して50%高速であった。 SORB/JavaPMとSORB/1001BASE-Tのリモート呼出しの性能差は、主に通信レイテンシの性能差によるものである。

4.今後

　耐故障性を実装するために、JavaPM、SORB に障害検出とそのリカバリー機能を追加する。最後に、SORBの有効性と実用性を実証するため、情報検索サーバを用いて評価実験を計画している。